TOKYOシェアオフィス墨田

その場所ならではの意味づくりで、 独自の体験を生み出す

TOKYOシェアオフィス墨田(以下:TSO)は、東京都がテレワークによる柔軟な働き方を推進するために墨田区に開設した3階建のサテライトオフィスです。1階にコワーキングスペースと動画配信ができるスタジオと工房、2階はコワーキングスペースとレンタルオフィス、3階はソロワークブースを設けており、階によって様々な働き方ができるのが特徴です。

私たちはこのサテライトオフィスの企画・空間設計から運営までをワンストップで担っています。東京都が墨田区という場所でサテライトオフィスをつくる意味と、これまでにないサテライトオフィスのあり方を実現したプロセスを、企画プロデューサーの折尾が紹介します。

今の時代の働き方を捉え直し、 新しいオフィスコンセプトを提案

私たちがTSOに関わることになったきっかけは、東京都が主催したコンペでした。そのため、一発でコンセプトを魅力的に感じてもらう必要がありました。

コンセプトを作る上で、意識したのは三つ。一つ目は、東京都の掲げる働き方にまつわるキーワードをひも解くこと。東京都がシェアオフィスを作るのであれば、東京都が目指す働き方を実現できる場所でなければなりません。

二つ目は、立地の問題が解決できること。TSOは都営浅草線「本所吾妻橋駅」から徒歩9分の位置にあります。駅前すぐのサテライトオフィスやリモートワークができるコワーキングスペースとは違う魅力づけをしなければなりません。立地の条件から誰のためのサテライトオフィスなのかを考えていきました。

三つ目は、ここで働く意味を作ること。リモートワークが当たり前になり、家、オフィス、カフェなど様々な場所で働けるようになった中で、この場所で働きたいと思う動機づけがなければ、いくら近くても来てはもらえません。

こうした背景を踏まえて生まれたのが、「スマートワークスタイル・ネイバーフッドワークスタイル」というコンセプトです。

オンラインとオフラインのハイブリッドな働き方を「スマートワークスタイル」と言う言葉に、スポットで利用するような場所ではなく、近隣の方が定常的に利用する新しいオフィスのあり方を「ネイバーフッドワークスタイル」と言う言葉に集約しました。

次にコンセプトを空間デザインへと落とし込んでいきました。「スマートワークスタイル」とは何かを考えた時、オンラインとオフラインを自由に行き来できることはもちろん、雑談しつつアイデアを考える時間、情報を集める時間、一人で集中する時間、真剣な話をする時間など、目的によって過ごす環境を変えられることだと捉え、一棟の中で空間に「グラデーション」をつけることにしました。

1階は初見の方でも入ってきやすいような開放的な空間に。2階は図書室やカフェのようなラウンジを設け、適度にリラックスしながら働ける空間、3階は半個室のように一人で集中できるような空間とし、階によって過ごし方を変えられるようにしました。

内装は「エシカル」をテーマにしています。東京都がエシカル消費を推進していた点も考慮し、なるべくサステイナブルな内装にすることで時代に呼応したデザインにできないかと考えました。そこで、廃材を内装の一部として組み込んだり、リサイクル素材を使った家具を取り入れたデザインを提案しました。

「なぜやるのか」をクライアントと丁寧にすり合わせ、 納得感のある空間づくりを実施

コンペ採用後、コンセプトを実現していく上で二つのことを大事にしていました。

一つ目はリノベーションに対するイメージを変えることです。

TSOは建物の内装をリノベーションして作る予定でした。リノベーションであることを活かして、天井を解体してそのままの状態を活かしたり、工事の際に解体した壁の鉄骨をランプシェードとして活用するなど、素材を再利用しエシカルな空間を実現することを考えました。

しかし、これまで東京都が関わってきた建物の中には廃材などを活かしたリノベーション施設がなく、クライアントには本当に人が集まる空間となるのか、綺麗な空間にならないのではないか、といった懸念がありました。

そこで職員の方と一緒に廃材を利用したバーやユースホテルに視察に行ったり、什器に関しても東京都の間伐材を利用したリサイクル家具のサンプルを作成するなど、出来上がる空間のイメージが湧くように丁寧にコミュニケーションを重ねていきました。

二つ目は墨田区という場所だからこその意味を持たせること。
その建物や立地のコンテクストを読み解きそれをポジティブに生かすことで、その場としての独自性が引き出され、他にはないその場所にふさわしい空間が実現できると考えました。これは私の企画や設計を考える上で根底にある考え方でもあります。

今回、墨田区という場所の特性は何かと考え、「ものづくりの町」であることを大事にしたいと思い至りました。墨田区は東京23区の中でも製造業の工場の数が多く、多くの職人が伝統の技を受け継いでいる町です。だからこそTSOで使う家具も買ってきたものではなく、自分たちで作り上げたものを使うべきだと思いました。実際に来ていただくとわかるのですが、家具の多くがオリジナルで作ったものです。エシカルという文脈に配慮しつつ、ものづくりの町である墨田区ならではの空間が実現できたと思っています。

毎日来たくなる場所を目指し、 広報や運営にも伴走

完成した施設はクライアントから高い評価をいただきましたが、TSOのプロジェクトは作って終わりではありません。「ネイバーフッドワークスタイル」というコンセプトを実現するため、近隣の方々が集まる場所となるよう、広報や運営にも携わっています。

広報活動では、場所の特性を読み解き、地域のコミュニティへのアプローチや、紙のチラシの配布等、使っていただきたいターゲットにしっかり認知してもらうことにも力を入れています。こういった細かい施策までやり切れるのも凸版の強みです。ニーズが多様化している現在、「できたから来てください」では人が集まりにくい時代となっています。本当に効果のある方法を探り、時には泥臭いアプローチもしながら、これからの空間とユーザーの繋がりもしっかりと作っていきたいと思っています。

運営面では、施設内のコミュニティ作りだけでなく、利用者の方とコミュニケーションをとったり、アンケート結果を分析して細かいPDCAサイクルを回したりと、より良い施設になるよう取り組んでいます。お手洗いは毎日綺麗か、スタッフの対応は気持ち良いかなど、一見すると小さいこと一つひとつにも気にかけています。

改めてプロジェクトを振り返ると、提案を評価していただいたのは、それぞれの役割のチームメンバーがポテンシャルを発揮してもらえたことに尽きると思います。

私のようなプロデューサーの腕の見せ所は、必要とされる役割に適正に人材を割り当て、シナジーが起きるようなチームを作ること。どんなチームにできるかで提案の質も変わってきます。その後も一つひとつの会議を細かく設計し、前に進めていく。当たり前のことですが、これを積み重ねることでしか、大きなインパクトは出せないと思っています。

TSOもその積み重ねで生まれたものです。TSOのように施設を作り上げることはもちろんですが、しっかりと価値あるものに育てていくことが場をデザインする上でとても大事です。上流から下流まで一気に担うことで、これからも価値を生み出し続けたいと思っています。

折尾大輔 Daisuke Orio
折尾大輔 Daisuke Orio

千葉大学大学院自然科学研究科建築専攻、工業用建築のリノベーションの研究。また、ベルギー・ポルトガルにて都市計画を学ぶために短期留学。2006年にTOPPANに入社。アートディレクターとして従事後、デザイン領域のディレクターとして従事。その後公共政策における日本産品の海外販路開拓・プロモーションのプロデュース業務に従事。現在は場のデザインのプロデューサーとして不動産開発・空間の企画・デザイン・運営業務等に従事。

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