資生堂那須工場 「BEAUTY PLAYGROUND」
「遊び」を通した美の体験で、 資生堂のファン化を促す
株式会社資生堂(以下:資生堂)の運営する那須工場 内にある「BEAUTY PLAYGROUND」は、工場“美の楽しさを生み出す場所”と捉え、子供から大人まで、美で遊び学ぶことで資生堂が提供する価値を体験することができる施設です。私たちは、本施設のコンセプト企画から、コンテンツの設計、ノベルティ制作まで、ワンストップで関わっています。
様々なデザインアワードでも取り上げられる本施設。空間プロデューサーの間島がそのプロセスを紹介します。
工場と場所の特性から導き出す 的確なコンセプト設計
本施設のご依頼をいただいた時、「企業及び商品のブランディング拠点として、多くのお客様に訪れてもらい、より一層、資生堂が提供する価値を理解し好きになっていただくこと」という目的のみが決まっていました。
誰に対して、どのような訴求をしていきたいかは具体的には決まっておらず、プロジェクトはそれらを検討するところからスタートしました。
まず、那須工場でつくられているものが中高価格帯のデイリースキンケア製品であること、工場が位置する那須塩原はファミリー向け観光エリアが多く、旅行の一環として訪れていただく可能性があることから、メインターゲットを子供たちやお子さんのいるファミリー層に設定しました。
実際に使っていただいている方に化粧品に入っている成分や製造技術について理解を深めて頂きつつ、そもそも化粧品に馴染みのない子供にもワクワクしてもらう。その両方を満たすために企画したコンセプトが「PLAY BEAUTY!美を遊ぼう!」です。
色々な遊びの要素を通して、資生堂の美と交わり、美を楽しみ、美を学び、いつの間にか美の知識を身に着けて帰っていただきたいという思いが込められています。施設名もコンセプトに沿って「BEAUTY PLAYGROUND」と名付けました。
シアターやボールコースター装置からノベルティまで、 多角的に「美を遊ぶ」体験で資生堂の世界へ没入させる
空間デザインでは「資生堂のスキンケア製品工場」だからこその特別な体験を意識して設計しました。
資生堂らしいカラーコードと透明感、製造設備をモチーフとしたベルトコンベア、パイプライン、バルブ、タンクなどのエッセンスで構成された資生堂にしかできない工場を巡るような展示体験。
ポップでプレイフルな世界観を演出するサイン・グラフィックデザイン、コンセプトを体現する没入型のシアターコンテンツや、難しい技術でも強烈に興味喚起を図り楽しく伝えるボールコースター&映像装置。プロジェクションマッピングによる製造技術紹介。世界観が反映された魅力的なガチャガチャのお土産。全てが一貫した世界観で統一され、体験者の気分を高揚させる仕掛けがちりばめられています。
また、「美を遊ぶ」体験の中でも特に三つのコンテンツに力を入れています。
一つ目は、資生堂の歴史や工場の特徴を知ってもらう導入としての「ガイダンスシアター」。
見学の入り口は世界観に引き込むための大切な要素です。一気に「PLAY BEAUTY!」の世界観に入り込んでいただくため、視界を包み込む没入カーブスクリーンと床面プロジェクションを整備。空間デザインと調和するポップでカラフルな世界観をフルCGで表現した映像も私たちがディレクションしています。
二つ目は、那須工場の主力製品に使われている成分「レチノール」の開発プロセスを知ってもらうボールコースター。
しわ改善成分レチノールがどのように作られているのかを紹介するにあたり、通常の映像とグラフィックでは興味喚起が難しいと考え、ギミックのある巨大なボールコースターでの訴求を目指しました。転がっていくボールをレチノールになぞらえ、転がる過程でその効用、歴史、肌の中での働きなどを分かりやすく、楽しく伝えています。この施設の目玉となる展示の一つでもあります。
三つ目は、製品の製造工程を紹介した巨大な立体グラフィック。
ただ製造過程を伝えるだけではお客様の興味喚起につながらないと考え、各工程をプラモデルのパーツに見立てた遊び心ある演出で、製造を構成する重要な要素たちを立体的に紹介しています。
空間のデザインだけでなく、お客様に空間を十二分に楽しんでいただくためのオペレーションフローの構築や音声ガイドシステム、お土産として持ち帰っていただくノベルティの制作まで、ワンストップで関わらせていただいています。
ワンチームとなる良い空気づくりが 質の高いアウトプットを実現する
最終的に出来上がった施設は、クライアント様からはもちろん、お客様にも大変喜んでいただいています。
このような結果となったのも、関わってくださったクリエイターの方々のおかげだと思っています。私たちはこれまで大小様々な印刷物から、映像制作、空間設計まで手掛けて培ってきた、多様なクリエイターとの関わりがあります。これは私たちの大きな強みだと思っています。
本案件では資生堂のクリエイティブチームと、より良いアウトプットのために「いかにお互いの力を掛け合わせていくか」を意識して推進しました。制作物の中には資生堂様のクリエイターの方と協業してデザイン・製作したものもあります。
今回に限らず、良いアウトプットを出す上で、受発注の関係にならずワンチームでものづくりをすることを意識しています。もちろん企画やデザインの叩き台は常に用意しますが、それをベースにどこまで質を高められるかがプロデューサーの役割だと思っています。
そのためには企画を考える場でどれだけ良い空気を作れるかが鍵となります。私の場合、多様なアイデアをできるだけ膨らませたり、議論が硬直しそうであれば、違う角度から問いを立ててみる、といったことを繰り返して、少しでも良いアウトプットが生まれるよう心がけています。
今回のプロジェクトも、そうしたコミュニケーションの結果生まれたと思っています。今後も、クライアントとワンチームで価値ある新しい空間・体験づくりを実現していきます。